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広島高等裁判所岡山支部 昭和58年(行コ)3号 判決

控訴人

高取吉之助

外二三名

右控訴人ら訴訟代理人

寺田熊雄

内藤信義

浦部信児

嘉松喜佐夫

関康夫

山崎博幸

石田正也

奥津亘

佐々木斉

大石和昭

森脇正

桜井幸一

一井淳治

宮崎健一

被控訴人

防衛庁長官

加藤紘一

右指定代理人

本間久義

外五名

被控訴人

呉防衛施設局長

飯村善三郎

右指定代理人

天野英孝

外三名

右被控訴人両名訴訟代理人

田渕洋海

右被控訴人両名指定代理人

木村要

外五名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「原判決を取り消す。本件を原審に差し戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、次のとおり付加、訂正する外原判決事実摘示中控訴人らに関する部分の記載と同一であり、証拠の提出、援用、認否の関係は、本件記録中の一審調書記載のとおりであるから、これらを引用する。

(一)  原判決二枚目裏一〇行目から一一行目にかけて「一〇日間」とあるを「一一日間」と改める。

(二)  同三枚目表六行目から七行目にかけて「前各同日」とあるを「それぞれの日の」と改める。

(三)  同四枚目表二行目「採取」とあるを「採草」と改める。

(四)  同二一枚目表一二行目「関係地元当局」とあるを「関係地元町当局」と、同二二枚目裏五行目「現状」を「原状」と改める。

(五)  同三〇枚目裏一一行目「しかも、」の次に以下を付加する。「右射撃訓練を含む軍事演習は、組織的、有機的に体系化された被控訴人長官の行う防衛庁の任務、すなわちわが国の防衛及び公共の秩序の維持等の自衛隊の任務を達成するための防衛行政権の発動としてなされるものであるから、国民が受忍すべき義務を定めた法令が存しないが故に、公権力性を否定することはできない。更に、」

(六)  同三一枚目表六行目の次に以下を付加する。

「また、公権力行使の実体を欠いている行政の行為でありながら、利害関係者がその法益の救済のために行政機関の行為を直接に捉えて対世的な是正判決、すなわち取消判決を求める場合には、行政訴訟の範囲を拡大してこれを是認すべきものであり、そしてその領域については、当事者の選択した訴訟方式が許されるべきである。本件においては、演習用地という公物の利用の側面においては物の利用という私的な性質と異なるところはないが、右演習場における本件射撃訓練は人的、物的に装備編成された組織的権力の発動、行使といつた公権力性を帯びた組織的計画的行動である防衛行政権の行使であり、これらのものが一体化しているのである。控訴人らは、そのうち防衛行政権の行使に着目して本件の訴を提起したものであるが、仮りにこれが公権力の行使に当らないとしても、本件行政訴訟の提起は許さるべきものであるから、公物管理の側面などを私法的に把握してこれを否定することは許されない。」

(七)  同三五枚目裏一〇行目初めから同一一行目「各原告が」までを、「控訴人高取夏士、同粟井貞一、内藤太、奥鉄男、奥義孝、高取栄次が」と改める。

(八)  同三八枚目裏九行目「継持保存」とあるを「維持保存」と改める。

(九)  同五六枚目表末行「(四 請求原因に対する被告らの答弁3(二)(3)」の次に「)」を付加する。

(一〇)  同五九枚目表六行目「仏試」とあるを「払拭」と改める。

理由

一本件についての当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正する外は、原判決の理由中、控訴人ら関係部分と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決六七枚目裏二行目から同六九枚目表二行目までを削除する。

(二)  原判決六九枚目表九行目の「五条二一号」を「五条八号」と改め、同裏四行目「抗告訴訟の性質」から同七〇枚目表八行目までを次のとおり改める。

「抽象的には、それが法的根拠のもとに行政権の優越的な意思の発動としてなされるものかどうかによつて決まるものといい得るものであるが、具体的には、当該行為を行政主体の権限として認めた法の趣旨、目的に照らしてその行為や、それに伴つて生ずる効果ないし法律関係を私人相互間の関係と区別して取り扱うだけの合理的根拠があるかどうか、その行為が私人相互間にはみられない関係のものであるかどうかなどを総合して個別的に判断すべきものである。」

(三)  原判決七〇枚目表九行目「以上の理解の下に」を削除し、同一一行目の「昭和五一年から昭和五六年までの間」及び同裏八行目の「昭和五一年から昭和五六年までの間に」とあるのを、いずれも「昭和五〇年一二月ころから」と改める。

(四)  原判決七一枚目表七行目から同七三枚目表五行目「いうべきである。」までを、次のとおり改める。

「しかしながら陸上自衛隊が実施する射撃訓練は内部職員に対する教育訓練の一つであり、しかも右の訓練は国がその公用財産である本件演習場を、供用目的に従い通常の用法によつて自ら使用をなしているものというべきであつて、右演習場の使用関係も本質的には私法上の使用関係に異ならず、非権力作用というべきである。

そして、本件射撃訓練に関しては、その演習場内に権利を有するものに対し、権利の侵害またはこれを制約すること、換言すれば右権利者にこれを受忍させることのできる根拠規定はなく(自衛隊の教育訓練に関する法令をつぶさに検討しても、予備自衛官に関する訓練召集命令に関する自衛隊法七一条及び訓練のための漁船の操業の制限または禁止に関する同法一〇五条を除いて、第三者の受忍を強要し得ることを認めた規定は存しない。)、また前記認定の教育訓練の性質からしても、右のような受忍を強要する必要性は存しないというべきであるから、これをもつて抗告訴訟の対象となる公権力の行使とみることはできないものである。」

(五)  原判決七三枚目裏一行目の次に、以下を付加する。

「この点について控訴人らは本件射撃訓練を含む軍事演習は防衛行政権の発動としてなされるものであるから、当然に公権力の行使に当り、国民が受忍すべき義務を定めた法令を要しない旨主張する。しかしながら、本件の射撃訓練がそのいうところの防衛行政権の発動としてなされたものであつたとしても、陸上自衛隊のなす教育訓練の性質、本件演習場の使用関係など右に説示したところによれば、到底公権力の行使とは認めることはできないから、右主張は理由がない。」

(六)  原判決七三枚目裏二行目冒頭(三)を(二)に、同七四枚目表六行目冒頭(四)を(三)にそれぞれ改める。

(七)  原判決七五枚目表一二行目の次に以下を付加する。

「(四) 控訴人らは、防衛行政権の行使によつてなされた本件射撃訓練が仮りに公権力の行使に当らないとしても、行政訴訟は許さるべきである旨主張するが、本件射撃訓練が、そのいうところの防衛行政権の行使によるものであつたとしても、公権力の行使と認められないことは右に説示したとおりであるから、このような場合にまで行政訴訟を認めるとの所論は、当裁判所の採用し得ないところである。」

(八)  原判決七五枚目裏七行目「五条三号」を「五条一一号」と改め、同一〇行目の「五四条」の次に「防衛庁組織令二四九条」を加える。

(九)  原判決七六枚目裏四行目「しかし、」から同七八枚目表一二行目までを次のとおり改める。

「しかしながら、本件演習場は右のとおり自衛隊員に対する射撃訓練その他の教育訓練の用に供されている施設であつて、道路や公園等のように直接公衆の利用に供することを目的とするものとは異なるから、少なくとも訓練時に通常一般人の演習場の利用を容認する余地はなく、また演習場の管理主体が、その本来の目的による使用に関し障害があると認めた場合、これを除去、予防するために一般人に対しその立入りを禁止することは、あたかも土地の所有者が右と同様の措置をとりうることと何ら異なるものではない。そしてこれらは前者は管理権の作用であり、後者は所有権の作用である点に差異はあるものの、その行為の実質やそれがもたらす法律上の効果の面からみて、両者の間にはほとんど異なるところはないものである。特に被控訴人局長の管理権の根拠となる前記諸法令には、本件演習場について立ち入り禁止措置をなすについて一般人に対する公法上の不作為義務や受忍義務を定めた規定も存在しないから、両者を異なる法規の適用に服せしめなければならない合理的理由も見出し難い。そうすると、本件演習場への立ち入り禁止措置は、公法上の法律関係ではあるが、それ自体としてはあたかも私的所有権に基づく行為と同視して差し支えないものであり、その意味において公権力の行使に当る行為ではないというべきである。」

(一〇)  原判決七八枚目表一三行目冒頭の「5」を「3」に、同七九枚目表初行から四行目までを次のとおりに、同五行目冒頭の「7」を「5」に改める。「4 また、本件において公権力の行使たる防衛行政権というものをみとめることのできないことは前示のとおりであるから、本件立入禁止措置について大阪空港事件大法廷判決の考え方を援用する控訴人らの主張を採用できないし、公権力の伴わない行政の行為について行政訴訟の選択提起を認むべきであるとする所論も採用できないこと、前示のとおりである。」

二そうすると、控訴人らの本件訴を却下した原判決は相当であるから、本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政訴訟法七条、民事訴訟法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(長久保武 北村恬夫 浅田登美子)

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